Otsuma Ranzan Junior and Senior High School

平成30年度1学期終業式:進路指導主任の話

2018.07.23

気温上昇による生徒の体調が心配なため、体育館ではなく教室で放送による方法で1学期の終業式を実施しました。進路指導主任の伊藤先生の話はいつも教養と、学ぶことについて深く考えさせられるお話、先生の教養の深さがぐんぐん伝わってきました。
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今日は、精神的豊かさということについて話しをします。
7月前半、西日本各地で豪雨により大きな被害が出ました。お亡くなりになった方々に哀悼の意を表すとともに被災された方々に謹んでお見舞いを申し上げます。
今、高校生から社会人まで、何万人ものボランティアが被災地にかけつけ、懸命な復旧活動を行っています。作業服、食料を持参し、宿泊場所を自分で手配して、猛暑と戦いながら、がれきや泥のかたづけ、被災者のサポートなどに携わっています。
このような活動は現地の人々の困難を助けるだけでなく、あらたな社会貢献を生み出す力でもあります。
2011年の東日本大震災の3年後から、福島高校生 社会貢献活動コンテスが開催されています。
このコンテストは被災地の高校生の声に応えるために企画されました。それは、「震災後、たくさんの人が自分たちを助けにに来てくれている。こんどは自分が、誰かを支える側になりたい。」という声です。
福島の高校生が「誰かを幸せにするために学ぶ」という学びのあり方を求めました。
社会貢献活動コンテスは復興、国際交流、まちおこし、製品開発など、幅広い分野を対象にしてています。
昨年の最優秀賞は、会津農林高校による「会津伝統野菜を未来へつなげる」というテーマで地元の伝統野菜の栽培と普及の活動です。
優秀賞としては地域のゴミ回収ボックスの製作や街頭献血の呼びかけ、バリアフリー実現ながあり、どれも社会を陰から支えようという取り組みです。
社会貢献には多くの場合、高い知識、技能が必要です。
先ほどの伝統野菜の普及活動にしても、農業技術、栄養学、マーケティングなど多くのことを学ぶ必要があります。知識と技能だけでなく、多くの社会貢献や仕事では高い倫理観、仕事への情熱などが必要です。
更に、私は、他人をサポートする人には人間的魅力が必要だと思います。
本校にペッパーが来ています。人工知能が発達してロボットの教員や医師や看護師が現れる時代が迫っています。では、人間がやる意味は何か。それはサポートする人に人間的魅力があることだと思います。それは、学生なり患者さんなりの相手に「この人は向上心を持って豊かな人生を生きている、自分もそのように生きたい。」と思ってもらえることだと思います。
ボランティアや職業を問わず社会貢献(他者をサポートすること)の目的は何でしょうか。
それは、人々にただ生きる以上の生き方、より良い生き方をしてもらいたいということだと思います。助かった命や健康で幸せをつかんでもらいたい。回復した日常生活を充実して生きてもらいたいという目的です。
この事については、少数民族保護の失敗という教訓があります。かつて、生活の場を奪われたアラスカのイヌイットやオーストラリアのアボリジニに経済的支援をしましたが、住居と生活費を与えられたイヌイットやアボリジニは怠惰になりアルコールに溺れる生活へと堕ちこみました。
平穏無事で安楽な日常に甘んじ、目的も感動なくただ生きるのは大きな不幸です。
人々により良く生きてもらいたいというのが社会貢献の本来の目的なのです。
そのためには先ず自分がより良い生き方を追求していなくてはなりません。
他人をサポートする人は、自分が精神的に豊に生きていなくてはなりません。
それは、精神生活が文化的であるということです。
文化は感受性や知的好奇心に働きかけて生きることを有意義にしてくれるものです。
私達が日頃学んでいる知識も文化の一部です。そしてその先には文化の高み、人類の文化的偉業があります。
その一つとして、美や芸術表現にたいする感動があります。絵画や建築、音楽や舞台芸術、文学作品、に感動したとき、生きててよかったと思える瞬間があります。そこにある美、斬新な価値観、人間精神の深さと気高さ、それらに出会ったことの感動。それは生きることに大きな意味を与えてくれます。
より多くの事を知り、経験し感受性を磨けば、より多くの感動に出会えます。
もう一つとして、科学的真理やその発見に対する感動があります。この世の真理を知りたいという知的好奇心が科学の原動力です。真理を知ることで自分の世界が広がり、人生観が深まります。
宇宙論や物理学理論の革命、生命のしくみの解明、進化生物学、脳科学
それらの驚くべき真理に対する感動、また、新たに見出された謎への感動は21世紀に生きる我々の特権です。
6月に小惑星探査機はやぶさ2が小惑星リュウグウに到達しました。リュウグウは地球と火星の間にある直径僅か900mの小惑星です。来年の暮れまで1年半観測を続け、サンプルを持って地球への帰還に向かう予定です。この観測により、太陽系の起源は何か、地球の水はどこから来たのか、生命を構成する有機物はどこでできたのか、などの解明が期待されています。この壮大なミッションの動機は、ただこの世の成り立ちと原理を知りたいという知的好奇心です。その知的好奇心の長年の積み重ねが人類の科学的世界像を作り上げてきました。 
文化は先人達の知性の活動の成果であり、新しい価値の創造の成果です。
文化活動によって人々の精神生活を豊かにしようとする取り組みが近年広がっています。
多くの、市役所、駅、病院で美術作品が展示され、コンサートが行われるようになりました。
長野県の佐久総合病院には、職員のコーラス部、吹奏楽部、演劇部などがあり、院内コンサートや、病棟訪問演奏が行われています。
患者さんは日頃接している医師や看護師の方々の演奏を聴きます。そこに生まれる感動は、患者さんと医療チームの絆を強め、病院生活を心豊かにするものです。
埼玉県北本市にある北里大メディカルセンターは「絵のある病院」として有名で、ノーベル生理学・医学賞を受賞した大村智教授の提唱で建設されました。大村教授は熱帯の寄生虫を駆除する薬を開発して多くの人を救いました。イペルメクチンというその薬は歴史を変えた薬といわれています。その大村教授は美術にも造詣が深く、美術館を建設するほどの人です。北里大メディカルセンターの廊下や病室には約300の絵画が展示されています。あるとき、絵を観たある患者さんが「もう一回人生をやり直したい」といったそうです。展示された作品を見て感動し、治療に向き合う勇気が湧いたというのです。
美、真理、人の善意やさりげない思いやりなど、それらへの感動は生きることに価値を与えてくれます。
そしてそれは学ぶことを通じて、自己を磨くことを通じて得られるものです。
いよいよ夏休みです。余暇(休みの日)こそ学びのチャンスです。日々の生活は目前の現実との格闘になりがちですが、余暇の活動は未来を切り拓くものです。
過去を変えることは出来ません。しかし、未来は変える事ができ、自分は向上することができます。どうか、この夏休みに自分の未来を切り拓いてください。