始業式の進路指導主任の話
いつも素晴らしい
今年の夏は記録的熱さとともに、7月に西日本豪雨があり、8月には台風がいくつも直撃して各地に被害がでました。被災された方々には謹んでお見舞い申し上げます。
また、災害ボランティアで活躍されている方々には深い敬意を捧げたいと思います。さて、3年生はいよいよ受験勉強の山場に差し掛かかり推薦入試も始まります。この時期、毎年3年生には目標を見失ってはいけないという話をしています。苦しい受験勉強の中、どこかに合格することが目的になってしまい、自分の将来の目標が霞んでしまうことがあります。今日は、目標を持って生きることの大切さについて話をします。
1学期終業式で、福島県高校生の社会貢献活動コンテスについてお話をしました。
福島県の高校生が地域社会をより良くするためのアイデアと実践にとり組んでいるという話でした。今日はそのことについて、社会貢献という観点ではなく、学びのあり方という観点で話をします。社会貢献活動コンテスは、社会の問題点を見つけ、見つかった問題点の改善策を探るということがテーマです。こういった活動は、教育の場において探求型学習、課題解決型学習と呼ばれているもので、今教育界をあげて取り組んでいる課題であります。
2020年にセンター試験にかわり新テストが導入される予定で、それに向けて大学入試も改革が進んでいます。思考力、判断力、実践力、他者との協働力といった学力を重視した受験へと変化しています。入試だけでなく、大学教育そのものもそういった力を育成する方向へと変化しつつあります。
探求型学習とは
「少人数グループでの学習などにより、学生が能動的・主体的に学習を行い、課題探求能力、課題解決力、コミュニケーション能力などを育成すること を目的としています。また、他者の異なる意見や価値観に触れる中で、他者と協調して活動する必要性を実感して、自分をより良い方向に成長させる意欲を高めることを目的としています。
こうした大学教育改革の大きな動機として、企業が求めている人材の変化があります。
今、企業は自ら考え自ら動く自律型人材を求めています。上からが指示された仕事を効率よくこなす人材ではなく、自分で新しい仕事をつくりだし、自分で仕事のやり方を考え実行してゆく人材が求められています。
こうしたことの背景は、変化が激しく予想できない社会に突入しているということです。1つ目は国際化です。
企業の海外展開、文化の国際交流が盛んになっています。今年の訪日外国人は3千万人を超えると予想されています。多くの日本人が海外で活動し、多くの外国人が日本で活動しています。言葉や文化の異なる人々とのコミュニケーションや合意の形成がますます必要となっています。第2の大きな変化は人工知能(AI)の発達と実用化です。
最近の予測では「今後10~20年でアメリカの雇用者数の半分の仕事がコンピュータ化される可能性が高い」
「2011年度にアメリカの小学校に入学した子どもたちの65%は、大学卒業時に今は存在していない職業に就く」
と予想されています。
AIは膨大なデータを活用したり、定められた目標に対して正解を導き出すことが得意です。多くの情報を駆使して効率よく仕事をこなすことに長けていて、自動車の運転、会社経営の判断、在庫管理・生産管理、人々の健康管理から医師の病気診断まで、多くの仕事がAIにとって代わられようとしています。これは、AIに仕事を奪われるということではなく、AIに因り人間の活動が変わるということです。人間は機械的仕事やデータの山から解放され、AIにできない活動をするようになるということを意味します。
今の教育改革はAIにできないことをやる人間を育てようとしています。社会の課題を発見し、改善を立案し、他者と協働して実践する。これらはAIに出来ません。福島高校生の社会貢献活動コンテストでの学びは正にそうしたことの学びです。
社会の改善の立案は何故AIにできないか?
それは、社会の改善には、より良い社会とはどうあるべきかという価値観が必要ですが、
AIは価値観を持つことができないからです。価値観は人間の領分です。
また、社会の改善には具体的目標が必要です。
文化活動の支援、異文化理解の取り組み、マイノリティの人権擁護、環境保護、生涯教育の在り方、高齢者の社会参加、等、より良い社会建設のための目標を持つことが必要です。しかしAIは目標を持つことができません。目標を持つことは人間の領分です。
AIの発達によって機械的な仕事やデータの山から解放されれば、人々は人間の領分の仕事により集中できるようになります。
個人においても、自分の価値観を高め、目標を持つことがすべての活動のはじまりです。より良い人生を求めること、上手に生きるのではなく善く生きようとすること。
目標を持っていきること、それらはいつも忘れてはならないことです。今三年生は何が何でもやり抜かねばならない場面に直面しています。自分の力をどれだけ発揮できるかが問われています。将来の自分の目標に向かって懸命に努力することは素晴らしいことです。
昨年も一昨年も受験生の懸命の頑張りは感動的でした。大きくない合格可能性にかけて頑張っている中、友人への思いやりを忘れない生徒。なかなか良い結果が出ない中、前向きに取り組みいつも礼儀正しかった生徒。皆全力で取り組んでいるのに、明るく誠実でした。そして受験を通じて人間的に成長しました。それは自分の将来の目標をしっかりと持ち続けていたからです。目前の合格ではなく、将来の自分の目標のために努力していたからです。それは、自分がより良く生きるためであり、より良い社会の建設に貢献するためです。大学合格やその後の大学生活は将来の目標を達成するための手段です。
3年生の皆さん、受験と大学生活を通じて自分を磨き、来るべきAI社会では、価値観や目標といった人間の領分で活躍してください。保護者の方々、我々教員、先輩方、1・2年の後輩達、皆が3年生を暖かく見守り応援しています。来年3月迄、自分の目標に向ってやるときはやろうではありませんか。