Otsuma Ranzan Junior and Senior High School

令和元年度 高校卒業式式辞

2020.03.06

校長室から

令和元年度大妻嵐山中学校・高等学校卒業式 式辞

卒業生のみなさん、卒業おめでとう。

この卒業の式にあたり、これまでのみなさんの学業、活動に対する努力と研鑽を、心から讃えたいと思います。また、この日まで長きにわたってお嬢様を育て、支えてこられた保護者の皆様に対しても、ここに深く敬意を表したいと存じます。

人類がその英知を結集しても、いまだにその本当の姿を解明できない新型コロナウイルスの感染拡大で、2月29日からの休校。そして今日のこの卒業式も、感染防止のため、時間短縮、参加者制限の上で、卒業生の皆さんと、私たち教職員で開催することになりました。保護者の皆様方や、ご来賓、後輩の在校生たちの参列なしでこの式を挙行することは、本当に辛いことです。

でも、今日の卒業式は、短いけれど私たちのあなたたちへの精一杯の思いをこめたものにしたいと、先生方全員で準備してきました。

 

あなたたちのいろいろな場面での顔や行動を思い出します。

入学式のすぐ後の学習合宿で、入学式の式辞の一節を読み上げ、一言一句をメモするように、そして翌日の朝までに全員が清書し提出するように指示しました。すると、あなたたちはあっという間に、知り合ったばかりの友人たちと学びあい一言一句メモを完成してしまったことを忘れません。あれ以来、あなたたちがこの3年間でどのように成長していくのかいつも楽しみにして見守りました。

 

そして2年生3年生

マラソン大会でゴールした後、ゴール地点で、後から来る友人に声をかけ、何度も何度も友人に並走して励ましていたあなた、生徒会活動の本質を見極めて活性化させたいと職員室に通って、先生たちと相談していたあなたたち

大好きな本を紹介するビブリオバトルで、他の人達を圧倒する表現力を見せてくれたあなた

文化祭を進化させるため、リニューアルしグランドのステージ企画を開発し、走り回っていた実行委員のあなたたち

友人の進路先が内定する中で頑張り続け受験に臨んだあなた、そしてそれを支えたあなたたちの一人一人が素晴らしい娘たちでした。

 

校長室にやってきて、一緒に考え、挑戦し、願いが叶わなかったことに泣き、それでもめげずに次の目標に立ち向かう。あなたのその目の中に見えた静かだけれど真剣な光、たくましさをハラハラしながら見つめました。あなたの挑戦を一緒に経験できた、これが学校で働く私たちにとって、教員冥利につきるということだと思います。

 

このあなたたちの努力の本当の結果は、10年後、20年後、もっと先のあなたたちの生き方に確実に効いてくるはずです。

どうぞ学び続けて、いつかあなたたちの持てる力を十分に発揮して、コタカ先生のおっしゃるように社会に貢献する聡明な女性になっていてほしいと思っています。

 

今、そしてこれからあなたたちの生きていく時代はどんな時代、またはどんな社会がやってくるのでしょうか。

慶応大学教授で、ヤフーのチーフ・ストラテジー・オフィサーの安宅和人氏は今話題の著書の中で日本の現状を次のように俯瞰し、語っています。

「日本が一人負けをつづけた15年

世界の企業ランキングを見ればわかるとおり、企業単位では日本は中国はおろか韓国にも大敗している。これは平成が始まった頃、このランキングの上位の多くが日本企業であったことを知っている世代には厳しい事実だ。もちろん、各領域におけるプレゼンスや技術が全体として負けたわけではない。いわゆるオールドエコノミーの多くで、日本の企業は今も相変わらず強い。しかし、国として生み出す付加価値の総和、GDPが世界的に上がっている中、この15年余り日本だけがこれを伸ばせないという衝撃的な状態が続いている。

でも、その打開のための方向は日本社会にうもれている。日本には正面から議論されることの少ない、日本社会が持つ未開拓の3つの才能と情熱がある。」

 

そして、彼が期待する、この3つの才能と情熱のひとつはまさに「女性の限りない伸びしろ」。そう、まだまだ十分に開発されていない、女性の力の活用です。

生徒会誌「しらうめ」の巻頭にも書きましたが、ヨーロッパ中央銀行総裁のラガㇽド氏が指摘するように女性たちが持つ素晴らしい能力を日本社会は活かしきれていない、だからあなたたちの活躍こそがKEYとなるのです。

そのために、明日からあなたたちはどう生きるのか、学ぶのか

今日の話のテーマは「知ること」「考えること」「行動すること」

これまでいつも、あなたたちに伝えてきたことをもう一度今日の式辞のテーマにして話をします。

あなたたちの高校での学びは、大学などの上級学校での①専門的な学びをするための基礎をつくるもの、②それを活用して社会課題解決の意欲を醸成するもの、③実際に動くことを経験する、ものでした。今、学校教育現場はこれまで主流だった知識の教え込みに重点を置くことから脱却し②③の力をしっかり育成していく方向に舵を切っています。それは、先ほど話した日本の現状をどうにか打開しなくてはならず、その未来を担っていくあなたたちに必ず必要となる知識技能以外の力をつけなければならないという課題意識から来ています。先生方も、「あなたたち生徒の学びを自ら学ぶ学びに変える」ことをテーマに研究・研修を続けてきました。この積み重ねの中で、あなたたちの学びが主体的な学びに変わってきたことを実感していました。

 

しかし貢献の意識を醸成しても、それを果たすためには、まずは、その基礎となる知識やスキルがなくては、実際には考えることも、活用をすることもできないのも確かです。

ソクラテスの「無知の知」は、「自らの無知を自覚したなら、学んで本当の知にいたることが筋道」ということと解釈されています。

 

私自身も「知らないこと」は恥ずかしくない、けれど「知らないことを知らずに、知ろうとする努力をしないこと」は恥ずかしいことだと思って生きてきました。

 

たとえば、家族を支えるために働き、教育を受けることのできない開発途上国の少女たちの支援はとても大切なこと、でも彼女たちのリアルな姿を「知って」行動するのと、想像だけで語るのでは説得力が全く違います。

 

自分の持つ能力を開発し、育て、世の中に貢献できる人になるために、「知るために」どうぞ学び続けてください。選択する力も、失敗を乗り越える力も、向上する野心も、学び続け成長し続けることからしか実現できません。

 

挑戦して「失敗」しても、「うまくいっても」選択した時の野心と覚悟を忘れず、目的を果たすまで、怯まずに学んでやり通すこと、それが、必ずあなたたちの人生を切り開いてゆくエネルギーとなる。「失敗!」もちろん大丈夫。たくさんの失敗をした者こそ、失敗の持つ意味と価値を理解し、野心を持って挑戦し続ける力を得ることができるのです。

 

そして何か困難があったときには、ただ困ったとして誰かに頼るだけではなく、自ら解決するチャンスと捉え、周囲に解決策の提案を持ちかけたり、その策を実行するために誰かを巻き込んだりするなど、他者と協力して目標を達成してゆくことも「考えて行動すること」だと思います。

沢山の人達と互いの良さを認め合い、補い合いながら物事を進める力により一人ではできないことも、やりとげることができるのです。

 

そしてもうすでにやってきているAIとの共存の時代。いまよりももっともっとDXデジタルトランスフォーメーションが進んでいきます。そんな時代を支える人材として、女性が実力を発揮する場が広がり、理系も、文系に関わらず女性の活躍するステージが増えて、あなたたちにチャンスの時代がきっと来る。

この国に生きる私たちは、3月11日で9年になる東日本大震災、津波と原発の大事故、それ以後も。地震や水害、など次々に襲いかかる困難や深い悲しみと苦しみに直面しました。そしてこの新型コロナウイルス感染拡大。

被災した方々の困難や苦しみ、大きな喪失感、私たちの困難はまだまだ続いていますが、困難な中で生きる人々、そして私たち自身が、これからの人生の未来図を描き直す支えになるためにも、皆さんが人々の生き様から多くのことを学び取り、自ら動き、そして伸びやかに、新しい日本を作り支えていく力の一つとなってくれることを願っています。

 

Girls, be ambitious !

Be ambitious not for money or selfish ,

Be ambitious for the attainment of all that a woman ought to be .

最後に、学祖であり、すばらしい先輩でもいらっしゃる大妻コタカ先生の教えの元で成長したあなたたちが、自分自身の力を信じ、能力を磨いて、生きがいのある仕事に就くこと。そして、世の中の人々のために貢献するために働く姿をわたしたちは思い浮かべています。

 

そして、素直さと粘り強さと細やかさで、あなたが、あなた方が長い生涯、幸運に恵まれ、悔いのない人生を送ることを祈り、私の式辞といたします。

 

さあ、元気で行きなさい。

令和2年年3月6日

大妻嵐山中学校高等学校 第十三代校長 真下峯子