Otsuma Ranzan Junior and Senior High School

「目標の持ち方・努力の仕方」令和2年度2学期 始業式(ウェブ配信)

8月17日(月)、令和2年度2学期の始業式を行いました。
1学期の終業式と同様、今回もコロナ禍と猛暑を考慮し、ライブ配信での始業式となりました。

生徒たちは各教室で、学校長の話(下記)や生徒指導部、進路指導部の先生方の話を聞きました。

その後、高2生3名(植原さん、小谷野さん、山宮さん)によるターム留学報告プレゼンテーションを行いました。

例年と異なる時期からのスタートとなりましたが、暑さ対策、コロナ対策を万全にして、この夏を乗り切っていきたいと思います。

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2020年8月17日
大妻嵐山中学校・高等学校
令和2年度2学期  始業式
校長講話より

「目標の持ち方・努力の仕方」

過日、湯ノ丸山という山に登ってきた。
湯ノ丸山は、私のお気に入りの山の一つ。高山植物が豊富にあること、そして何よりも頂上からの眺望が素晴らしい。今回4回目の登山になる。

標高は2,100m。「登山」などと偉そうな言葉を使ったけれど、スタートが標高1,400mくらいの湯ノ丸山スキー場の駐車場なので、実際は700m位しか登っていない。いってみれば「夏山ハイキング」と言うのが正しいかもしれない。いつもは湯ノ丸山に登ってから、目の前にある烏帽子岳という山にも登って下山するが、今回はアップダウンを避けて別ルートで下山、計5時間30分のコースだった。

 

しかし、このコロナ禍のせいで、極端な運動不足に落ち入り、体重も通常より1kgオーバーという状態。よく知っている山とはいえ、体力的にはとてもキツく、何度も途中で挫けて引き返そうかと思った。でも、山道のあちこちで出会う、ハクサンフウロ、マツムシソウ、シモツケソウなどの高山植物に気持ちを励まされて、どうにか登りきることができた。それでも情けない話だが、下山途中で太ももがつってしまい、何度か休憩しながらようやく駐車場にたどり着いた。

 

この湯ノ丸山は、駐車場からゲレンデ、そして山頂まで、ほぼ直線状に登山道が続いている。だから、休憩しながら後ろを振り返ると、自分が登ってきた道が真下に良く見えるという、他の山ではあまり見られない特徴がある。30分前に休憩した分岐点がはるか遠くに見え、この30分間、ずいぶん歩いて来たんだなあと自分の努力の跡が実感できる。とっても苦しくて挫けそうになった急坂も見える、あそこを乗り越えられたから、今があることも実感できる。

 

そんなことを考えながら登っていくうちに、これって受験勉強に似ていると思った。

・登山している間はなかなかゴールが見えず、どこまで頑張れば良いのかわからず苦しい。

受験勉強も同じ

・樹林帯を登っている間は、周りの景色もよく見えない、風がなければ蒸し暑く苦しい。何でこんなに苦しい思いをしてまで登山をするのかわからない。「そこに山があるから」とカッコ良い言葉を使った人がいたが、そんな気持ちにはなれない。

これも受験勉強と同じ。

休憩中の一時の涼風や登山道のあちこちで出会う高山植物は、家族や友人、先生方の支えのようだ。

・樹林帯を抜けると、一気に森林限界を超え、高山植物が咲き乱れるお花畑になる。ここまで来ると、気温も下がり、風も心地よい。そして、頂上の絶景。これを見たかったからここまで登ってきたという満足感。希望の大学への合格に例えられるかもしれない。

 

登山中、特に苦しい時に誰もがやることだと思う。少なくとも私もいつもそうしている。

まずは視界の一番上にあるポイントを目標にして(おそらく50m位の高さしか無いと思うが…)「まずはあそこまで登ろう、あのポイントにたどり着いたら休憩しよう」と、自分に言い聞かせること。その目標ポイントが高すぎたら、とてもではないが頑張れない。それこそ自分の今の体力で頑張れる高さを目標に設定することがとても重要。

 

そして、目標のポイントにたどり着いたら休憩して、給水やおやつのご褒美。次には、必ず登ってきた道を振り返ることにしている。ここまで頑張れたのだという満足感を感じることができるし、見える景色が全く違うことが実感できる。休憩後は、少しだけ元気が出て「もっと登ればまた違った景色が見えるはず」と自分に言い聞かせて、また山を登り始める。私にとって、そんな苦しさの連続が山登りだが、それでも山頂の絶景が見たくて、やめられないことも事実。

 

自分のお粗末な山登りの経験をもとに、あの元大リーガーのイチロー選手の言葉を紹介することに少々恥ずかしさはあるが、イチロー選手の言葉をいくつか紹介する。

 

  • 「夢や目標を達成するには、1つしか方法はない。小さなことを積み重ねることだ。」
  • 「ここまで来てわかったことは、まずは手の届く目標を立てて、1つ1つクリアしていけば、最初は手が届かないと思っていた目標もやがては手が届くようになるということです。」
  • 「今、自分に出来ること、頑張ればできそうなこと、そういうことを積み重ねていかないと遠くの目標は近づいてこない。」
  • 「夢は近づくと目標に変わります。」
  • 「高望みはしないが、高望みはできる。小さな夢の連続の向こうに高望みを実現する時が必ずくる。初めから高望みしないだけ。」

 

あの偉大なイチロー選手の言葉だからこそ、重みがあると思わないか。

皆さんも、勉強や部活動等が思ったように進まず思い悩むのではなく、まずは手の届く目標を立てて、一つ一つクリアしていくことが必要。1つの目標がクリアできれば、また違った景色が必ず見えるはず、そうすればまた違った目標を持つことができる。まずは、このような正のスパイラルを習慣づけてほしい。

 

目標に向けての努力の仕方について、私の考えを話した。それでは、目標はどのように決めたら良いのか、私の大昔の話をする。

私達教員は、生徒に対して「高い目標を持ちなさい」とよく言う。具体的な目標があれば、勉強に向けてのモチベーションが高まるからだと思う。でも、我が身を振り返えれば、皆さんと同じ年齢の頃、そんなにしっかりした目標を持っていたのか、少し自信がない。私自身、目指す大学名は最後まで決められなかった。

夢は野生動物の保護官か動物園の飼育係。そのためにまずは獣医か生物の勉強をしたいと思うようになった。ほぼ同時期に、動物の行動に関する本が立て続けに出版され、それらの本を貪るように読んだ。自分が本を選んだのか、たまたま本に選ばれたのかわからないが、こうした本との出会いから動物行動学への憧れが強くなった。そうこうするうちにそうした本を書いた著者に会いたくて、またその先生のもとで勉強したいと思うようになった。

その先生の名前は、菊山栄先生。今のようにネットが発達した時代ではなかったので先生のプロフィールを検索する手立てもない。わずか2cmの動物の脳を生かしたまま手術するような先生なので、勝手に色白でほっそりした学者さんを想像していた。はじめての授業で憧れの菊山先生が教室に入って来られた時の衝撃は今でも覚えている。バリバリのラガーマンで私の想像を見事に覆すには十分な先生だった。

それが原因ではないが、大学で勉強していくうちに自分の興味や関心も変わっていき、なりたい職業も少しずつ変化していった。大学4年生の頃は大学の研究員に憧れ、大学院時代は、己の研究能力に限界を感じ今現在の職になった。

 

大学に入ってからも、山登りと同じ。自分のなりたい職業に向かって、真っ直ぐに突き進む者もいれば、色々な回り道をするものもいる。1つの頂上に立った後、尾根伝いに全く違う頂上を目指す者もいる。私の40人弱の同級生のうち、医者になったものが4人、大学教授は2人、一般企業に研究員になったものが15人位、教員が8人位、まったく生物と関係ない職業についた者が8人くらいだった。

 

本日の話をまとめる。

しっかりと目標を決めないといけないと焦っている生徒もいるかもしれない。具体的な目標がもてず、勉強のモチベーションが高まらなくて焦っている生徒もいるかもしれない。

でも、私の経験から言えば、しっかりと目標を持てればそれに越したことはないが、確たる目標がもてなくてもそれで良いと思う。「こんな勉強をしたい」「こんなことをやってみたい」といった、漠然とした目標で大学に進学しても良いと思う。今、確たる目標がなくても、大学でさまざまなことを学び、さまざまな友人と出会う中で、いくらでも新たな進路は開けるはずだと楽観的に進学先を考えても良い。

大学入学後の進路変更もいくらでもある。私の同級生のうち4人が医者になっているが、彼・彼女らは大学を卒業したのち、他大の医学部に編入して行った。そんな例はごく普通にある。理工学を専攻しながら、基礎医学の研究をしている人もいる。ノーベル賞受賞者山中伸也教授が、整形外科医から基礎医学に転向したことは有名だ。

大学で一生懸命学べば学ぶほど、自分の新たな夢が広がっていくことも事実。山登りの後に見るお花畑や山頂からの絶景と同じように、皆さんには、そんなワクワクするような将来が待っている。

 

今なすべきことは、大学に入ってから一所懸命に学ぶための基礎体力(基礎学力・自学力)だけは、身につけておかなければいけない。また、一般的にはレベルが高いと言われる学校には、それ相応の力を持った人たちが入学してくる。そうした新たな友人との出会いとそうした仲間達と切磋琢磨することを期待するならば、それ相応の大学を目指すべきだ。

 

皆さんの2学期からの頑張りを期待して、2学期初めの挨拶としたい。